しばらく前から、私は障害を抱えているお子さんの支援施設で研修させていただいている。
 
   ここの子どもたちほ、いろいろな障害を持つているが、この中に身を置くと、そのことは少しも特別なこととは感じられない。それぞれの子どもが、その子らしくありのままに生きることから、よりよい末来が形作られていくというのが、ここでの保育の姿勢である。この点では、私が特別なことと感じられないのも当然であろう。ここの先生が「ほんとうに個性的です」といわれるとき、子どもたちの背負つている問題を障害と受け取らずに、個性的と受けとる豊かさが感じられる。
 
  さて初めての日私がつくことになったのはYくんである。年齢より小さな透けるような色白のY君を、「耳が悪いけれどもそのことは意識しないで大丈夫です。気持ちが通じますから」と担任の先生から短く説明された。Y君が顔を上に向けるようにしてたどたどしく歩く様子はやっと歩き始めた感じである。また口をパクパクさせて頭を振って何か言っているようでもある。

  私はY君の顔をのぞきこむようにして一生懸命、気持が通じるように、楽しいときが持てるようにと努力した。何となくぴったりいかないまましばらくしたとき、Y君が壁によりかかるようにして、手をうしろに回して立った。
 
 
  ふと、私もY君から少し離れて、同じように壁によりかかって立ってみた。すると、Y君が腰で「トントントン」と壁を打ったのが背中に伝わってくる。私も同じように腰で「トントントン」と叩いた。

  Y君は上半身をこちらに向けて二コッとしたいいお顔で、また「トントントン」と叩く。私も嬉しくなって、「トントントン」と返事をする。もっとおかしそうに「トントントン」「トントントン」とやり合って、いっしよに心から笑った。

  小さなやりとりであるが、私には何とも楽しいできどとだった。しばらく忘れていたもの、幼い者と心を通わせる ときの、言葉ではない語らいが甦ってきた。

  これらのやり取りを言葉になおしたら、「センセ」「ハアイ」 「アソボ」「イイワ」というようなものだったろうか。